映画

愛によって互いの魂を開放していく
映画「リリーのすべて」

2018-07-16

 

 

 

その端正な顔立ちも勿論素敵なのですが、作品を選ぶセンスがデビュー時から絶妙に良くて大好きな俳優の1人、エディ・レッドメイン。年々演技力が益々神憑ってきていて、「博士と彼女のセオリー」では文句無しのアカデミー賞主演男優賞も受賞。(その時のスピーチがまた可愛い‥)本作「リリーのすべて」でもトランスジェンダーという難しい役も繊細に演じていて、実際にいたアイナーという人物に対する深い敬意と愛情が感じられました。

 

 

トム・フーパー監督エディ・レッドメインの関係は古く、なんと遡ること10以上前、エディのTVドラマデビュー作「エリザベス1世 〜愛と陰謀の王宮〜」(2005)からだそうです。その時からエディの類希なる才能に目をつけていたというトム監督は、再び一緒に仕事をしたいと考えていた、なんていうエピソードも。その後、映画「レ・ミゼラブル」で仕事をした際に、本作の脚本を既にエディに渡していたとのこと。監督はこんな風にインタビューで語っていました。

”実は2008年に映画を作ろうとしたとき、周囲からは“たぶんこのテーマでは映画会社や配給会社を見つけるのはとても難しいだろう、リスクが高すぎる”と言われたんだ。でも、『英国王のスピーチ』や『レ・ミゼラブル』の成功を経て、作りたい映画を撮れるようになった。”

 

舞台は1920年代、デンマーク。実際に存在した画家のアイナー・ヴェイナーは、同じく画家である妻ゲルダに頼まれて女性モデルの代理を務めたことをきっかけに、自らの中に潜む“女性”に気づいていく。やがて“リリー”という女性として生きることを決意するアイナーを妻は理解し、献身的に支え、愛し続けるが…。世界初の性別適合手術に成功した人物の実話を基にした、愛の物語。(原作あらすじより)

 

 

繊細でシャイな芸術家アイナーを、魅力的にエディが演じていたのですが、油絵をスーツを着ながら描くなんて‥!そんなエディが美しいし、アイナーという人物がそういう人だったのだろうと思うのですが、何だか改めて見ても、やっぱり個人的にはとても不思議な光景でした。

 

一方の妻ゲルダは、アイナーと出会った時も自分の方から誘ったと語り、男性的な部分を持つ積極的でチャーミングなキャラクターとして描かれていました。

 

妻の絵のために、ドレスを体にあてて、タイツとヒールを履きポーズをとるアイナーは、ここで自分の中にずっと秘めていたもう一つの性に戸惑いながらも目覚めていくのですが、

 

このシーンは、じわじわと内側からこみ上がってくる言葉にならない感覚を、繊細な目の動きや表情でエディが演じていて、とても美しかったです。

 

監督はこんな風にインタビューで語っていました。

「アーティストとしての野望と、女性としての喪失がないまぜになるという複雑な状況でもある。皮肉だよね。ゲルダの成功は、リリーにありのままに生きることを推奨したという現実の上に成り立っているんだ。女性としての幸せは妥協した形になった。この映画は、愛の力を映し出したものだけれど、もうひとつ、アートの力を浮かび上がらせたものでもあると思っている。偉大なアーティストとは、ありきたりではないということだ。夫の中に潜んでいた女性性を目の当たりにするうちに、アーティストとしてそこに惹かれていき、創作意欲をかきたてられる。リリーがゲルダのミューズになるんだ。そんな目を見張るようなアートの魅力、感受性を表現できるということも、この映画をとった理由のひとつだ」。

 

アイナーはゲルダによってもう一つの性を解放され

 

一方のゲルダは、アイナーの中にいるリリーによってアーティストとしての才能を解放されていく。

 

2人はそれまでの自分自身を脱皮して、新しい姿へとまさにトランスフォーム(変容)していくのですが、それまでの夫婦関係を維持できなくなってしまいます。戸惑い傷つきながらも、それでも献身的にリリーとして生きたいアイナーを支えようとするゲルダの姿に、トム監督が描きたかったであろう「美しい愛の形」が強く投影されているように感じられました。

 

アイナーがリリーとなっていく姿を、エディがとても綺麗に演じていて

 

独特の艶を醸し出していました。エディ様お美しい‥

 

アイナーの時のエディさんも可愛い♡

 

ゲルダ演じるアリシア・ヴィキャンデルは、映画「エクス・マキナ」(感想はコチラ)で演じた人工知能ロボットも鮮明に記憶に残っている程美しかったのですが、今回も実はゲルダが本作の主人公なんじゃないか、と感じさせる程の存在感を放っていました。とにかくどのシーンも可愛くて、アイナーがリリーになろうとも、愛さずにはいられないゲルダの姿を、すばらしい演技力で演じていました。オーディションの際、彼女の演技を観て監督が思わず涙してしまった、というエピソードもあるほど。本作でアカデミー賞助演女優賞を受賞したのも納得です!

 

 

そして本作で目を引くのは、やっぱりデンマーク画家ハンマースホイの絵画をベースにして作られたセット。

 

カメラワークも絵画の構図を意識したカットが多く、ハンマースホイファンの私としてはたまらない世界観です。

 

青みがかったグレーを基調とした色味で作られた空間がとても美しくて

まるで主人公アイナーの心象風景をそのまま映し出しているようでした。

 

実在していたアイナーとゲルダですが、本映画はデイヴィッド・エバーショフが2人を書いたフィクション作品を原作にして製作されたので、史実とは様々な点において異なっているそうです。

 

(写真は40代のアイナーと、グレダが描いたリリー。)

 

1930年、リリーはドイツの性科学者であるユダヤ人のマグヌス・ヒルシュフェルトのもと、性転換の最初の手術を受けることになる。ヒルシュフェルトは“第三の性(生物学的両性具有)”などの性の多様性について研究を重ね、ドイツで同性愛者の擁護、そしてフェミニストとしても活動していた。

そして最初の精巣除去手術の際、驚くべきものが体内で発見される。アイナー/リリーの腹腔内になんと未発達の卵巣の残滓があった。小柄な体、くびれたウエスト、まばらな体毛、ほんのりと隆起した胸。アイナーは男性ではあったが、女性で「も」あったことを語る証拠だった。手術後、リリーはより一層女性らしく美しくなっていった。

ELLE の記事より

 

この記事を読むと、実際のアイナーが女性として生きたかった背景にあったものは、もっと複雑であったのだと気付かされます。

 

トム・フーパー監督はインタビューで、アイナーと、その妻で彼を支え続けた女性ゲルダの2人の間にあった、「性」を超えた愛の物語が本作のテーマであったと語っていました。またこちらのインタビューでは、”(本作の舞台である)20年代には“トランスジェンダー”という言葉がなく、(リリーのような人々は)監禁されたり放射線治療を受けたり、異常性としてとらえられた時代だった。それが皆、愛によって解放される。本作は(見た者に)愛のきらめきを与える作品だ。”と語っていました。

 

更に監督は、多くのインスピレーションを貰ったトランスジェンダーの女性がいることも語っていました。

『マトリックス』シリーズの監督であるラナ・ウォシャウスキーだ(※)。彼女はリリーのことを知っていた。そしてこう言ったんだ。“この物語を悲劇として描かないで。それはとても重要なことなの”と。“性別適合のプロセスは痛みを伴う旅であると同時に、喜びであると、多くの人にこの映画を通して理解してもらいたいから”とね。だから、必ずそうすると約束したんだ」。

※ラナは元ラリー、彼女の妹リリーは元アンディ。姉妹揃って男性から性別移行し、いまではウォシャウスキー姉妹として認知されている。

 

 

この映画を観て、「引き寄せの法則」で有名なエスター・ヒックスがチャネリングしているエイブラハムが「性転換について」語った言葉を、ふと思い出しました。

 

性転換を行う人たちというのは、見えない世界の「内なる存在」の視点から見て、大変力を持った人たちである。彼らは、自由であることを希求し、ほとんど不合理といえる異常な環境の下でも、個人的な創造者でありたいと願っている。彼らが、身体に宿ったとき、既にそうした決断をしていたと言うつもりはない。ただ、自由への希求が非常に強かったので、そのような行動(性転換)がひらめいたのだ。なぜなら、それが自分たちの自由を見だす手段だったから。

エスター&ジュリー・ヒックス『引き寄せの法則の本質』より

 

 

トランスジェンダーの方だけに限らず、あるがままの自分自身を解放することや、そして何よりお互いの自由を尊重し合うことの美しさを、この映画は美しすぎるほど美しい映像とストーリーで描いていました。

 

 

 

 

リリーのすべて (字幕版)
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