映画

男性フェミニストが贈る 映画「20センチュリー・ウーマン」

2017-06-30

映画監督も勿論人間で、その人がどんな人生を経験して来たか、それがあらゆる形になって創作物をつくってゆきます。映画「人生はビギナーズ」では自身のゲイの父親を描き、そして今回は、自身の母親を題材に描いた監督マイク・ミルズ。

 

 

偶然読んだインタビュー記事で語られる彼の口調の、柔らかいこと、柔らかいこと。そういえば、人生はビギナーズでユアン・マクレガーが演じた、主人公のキャラクターも繊細で静かで優しくて、なかなかアメリカ映画でこのようなキャラクターが描かれることは多くなかったのでとても印象的だったのを思い出しました。一体どのようにして、そんな監督の人生観や独特の視点が築かれていったのかが、本作「20センチュリー・ウーマン」を通して少し垣間みることができます。

 

 

物語は15歳の少年ジェイミーと、その周りにいた、それぞれ人生にどこか悲しさを抱いている3人の個性豊かな女性たちにまつわる、ある夏の日々を追ったもの。

 

周囲にレズビアンかと疑われるくらい、夫と別れてからデートも久しくしていないけれど、すぐに出会った人達をホームパーティーに誘ってしまう母ドロシア(アネットベニング)

 

セックスとタバコで自分を傷つけている、年上の幼なじみのジュリー(エル・ファニング)。

 

そして子宮がんと分かり子供はもう作れないと宣告されたフォトグラファー・アビー(グレタ・ガーウィグ)。

 

彼女たちの世代もバックグランドも違うけれど、何処か人生や自分自身に対して怒りや憤りを感じながら人との距離感をどうとったらよいのか分からずにいる、不器用で愛すべき3人の女性たちと関わってゆく少年。元々グラフィックデザイナーやミュージックビデオなどで有名になったという監督とあって、映画のさまざまな箇所に、独特の美しさが潜んでいました。例えば、ジャケットのビジュアルは、とてもシンプルですが、カラーといい、構図といい、上手に光の効果が使用されはっと眼を引きますし、フィルムのアングルは、どこを切り取っても絵になる2Dの視点による区画です。

 

そして車が走るところや、過去の回想シーンの映像効果処理は、CM広告のようにポップでお洒落です。

 

監督のパートナーであるアーティストのミランダ・ジュライも強烈 な才能で、映画や小説、現在アート作品を作って有名ですが、映画に出て来た3人のキャラクターと何処か似た様な香りを感じずにはいられません!

 

映画の中で3人のユニークな女性たちが、少年に癒されている様子には、監督の若干のナルシシズムも感じなくもありませんでしたが(笑)しかし、これまで、この様な(ストレートの)男性によるこんなに優しい女性讃歌作品を、見たことがあったでしょうか。

 

個人的に、映画の中で最も印象的だったシーンがこちら。

フェミニズムの本を読んで男らしさとは何かを学ぼうとしている少年ジェイミーが、母親に言ったセリフ。

「いい男になりたいんだ。女性たちを幸せにしたいんだ」

 

全世界の男性に聞いて頂きたい名台詞でございました(笑)

 

 

 

 

 

個性豊かな女性たちに育てられたというマイク・ミルズ監督。男性監督が描く女性像は、どうしても理想が入ってしまい(その逆も、勿論然りでございます!)違和感を感じることもしばしばなのですが、この作品に出てくる女性像は、とても近くに感じました。それはまるで、アテクシ自身が持っている部分を優しく許された様な、すぐ傍に居る大切な誰かをそっと見ている様な、そんな気分にさせられます。

 

このマイク・ミルズ監督の優しさ溢れる作品は、決して派手ではないけれど、静かに重要な映画史のページに刻まれるものだろうと思います。

 

 

20 センチュリー・ウーマン(字幕版)