エンターテイメント | マガジン | 音楽

奇跡の対談をもう一度!浦沢直樹 × 宇多田ヒカル ①

2016-03-18

前回の記事で紹介した、私の漫画熱に再び火を付けてくれた漫画家の浦沢直樹さん。
引き続き今回も浦沢さんネタです(笑)


 

もう随分昔になってしまいますが、宇多田ヒカルさんと浦沢さんが「雑誌Invitation」で対談していたことがありました。大好きな2人の対談はとても面白かったので、引っ越しにもめげず、コピーした記事は大事に取ってありました。(なんと2006年のもの‥)前回の記事を書いた後、懐かしくて久しぶりに読んでみたのですが、今改めて読んでも面白い内容だったので、折角だからここでシェアしたいと思います。長いので数回にわけてお送りします!

(注意)*コピーのため、端の1〜2行が抜け落ちてる部分がいくつかあります。スミマセン!

”わたしから見ると、週単位で締め切りがあるマンガ家さんって、ちょっと信じがたい” 

ーーー 宇多田

 

”地獄ですよ(笑)。まともに考えると頭がおかしくなるので、最後にずぼらになるしかない”  

ーーー 浦沢

  

宇多田ヒカル(以下、宇多田)今回ってどういう経緯でこういうことになったんですか?

浦沢直樹(以下、浦沢)僕は「対談があるから」って言われて、相手は誰?って訊いたら「宇多田さん」って。それってどういう企画なの?!って(笑)

宇多田 わたしは、依頼が来たとき夫のほうが先に興奮しちゃって「なんだよそれ、必ず行ってきてよ!」って。そりゃ言われなくても行くよ!って(笑)。夫が「『PLUTO 』で泣いてます」って伝えてと言ってました。わたしも、ピアノを弾くロボットが帰って来ないところで号泣しちゃいました。

浦沢 ありがとうございます。

宇多田 浦沢さんはもともと音楽がお好きなんですよね?

浦沢 自分で曲を作り始めたのは中学の頃から。去年も『20世紀少年』に合わせたライブをやるために新しい曲を作ったりしてました。

宇多田 おお、そんな時間があるんですか?

浦沢 まあ、本業ではないし、できるときはすぐにできるし、できないときはできないから。宇多田さんだって曲作りにべったり時間をかけるわけではないでしょう?締め切りってあるの?

宇多田 契約上は「何月までに新曲を出してアルバム出して」というのはあるんだけど、それは本当に漠然としていて、だからわたしは自分で締め切りを決めちゃうんですよ。そうすると他人から決められた締め切りよりも必死に守るんです。自分でこの時期に出したいと思ったら、「今の時点で2曲できてるから、そろそろスタジオをブッキングしたほうがいいかな」って考えて、逆に周りにプレッシャーをかけたりしてる。で、今度はスタッフから「じゃあこの日までに歌詞があがってないとマズいね」とかプレッシャーをかけ返されて、そうですね、頑張りますって(笑)。わたしから見ると、週単位で締め切りがあるマンガ家さんって、ちょっと信じがたいというか。

浦沢 地獄ですよ(笑)。本当に、締め切り地獄。まともに締め切りについて考え始めるとあたまがおかしくなっちゃうので、最後の最後にはずぼらになるしかない。

宇多田 わかるー。それってすごい大切ですよね。わたしの場合は、その締め切り地獄のプレッシャーが一時期に全部集中して押し寄せてくるんです。アルバム作りの最後の方なんて「プレス工場を待たせてるから、あと数時間で曲を仕上げないと発売が遅れて契約違反で大変なことになる」って状況になって、ああ、できないできないできないって自分を追い込んで、呼吸困難になったり、過呼吸になったり。

浦沢 それはキツイな。

宇多田 浦沢さんはそういうとき、お客さんが待ってるとか、できなかったらみんなガッカリするとか、考えますか?

浦沢 みんなガッカリするとは考えない。ただ、何か自分が大切なものを失うような感じがするね。だから僕は一度も締め切りって落としたことないんですよ。

宇多田 ‥‥‥おおお、先生!

浦沢 宇多田さんはあるの?

宇多田 わたしは一度だけ。本当に身体を壊してしまったとき、ツアーの仕事をキャンセルしてしまったことがあって、そのときは2ヶ月くらい鬱になって立ち直れなかった。みんなに迷惑をかけたことに落ち込んだわけじゃなくて、必ずやるんだって自分が死守してきた鎧がそのとき解けちゃった気がして、自分に幻滅した。深海でいきなり潜水服に穴が空いちゃった感じ。

浦沢 僕らは生身の自分を見せるわけじゃないから、ヘロヘロでも原稿さえ仕上がればいいんですよ。ただその代わり、40度熱があって今すぐ倒れなきゃいけなくても、「今の原稿をあげてから倒れてくれ」と平気で言われる世界。ほとんど”描くマシン”にならないといけないときがある。ウィルス性の肺炎で倒れた作家の隔離病棟のベットに、机が運び込まれて、アシスタントが病棟に忍び込んで持っていくとか。

宇多田 原稿から感染しちゃうじゃん(笑)。でも、その状況ってわかる気がする。わたし、子どもの頃にお母さんのステージを舞台の袖から見ていて、いくら病気でも一度本番が始まると別人のように切り替わっちゃうんですよ。高熱だったり、直前までお父さんと喧嘩して泣いてたりしても、舞台が始まったら「お母さん、あなたは別人ですか?」ってくらいに顔つきが変わってる。わたしも高熱で歩けなくて注射を打ってステージに出たことがあるんだけど、気がつくと2時間が過ぎちゃって。そういうときって”機械チック”なりの人間のすごさを感じるんです。

人を感動させるものは何かを犠牲にしている

宇多田 わたし、極限まで集中できることが1番の能力だと思っていて、曲作りでも歌っているときでも、極限の集中状態まで昇りつめていくと、すごく心地がよくて懐かしくて気持ちいい場所まで突き抜けるんです。あ、これがわたしなんだって思うと同時に、自分が存在しない無の状態で、何かに溶け込んでいる感じがある。そのときが一番「生きてるな」って感じるの。

浦沢 僕の場合は、号泣した感じに近い。本当に集中して描き上げたときは、実際に目の周りが泣きはらしたあとのようになるんです。極限状態でモノを生み出すっていうのは、どこか思いっきり泣く行為に似てる気がする、あるいは思いっきり吐くとか(笑)。

宇多田 うんうん。すごいスッキリ感と、喪失感と、情けない感が、全部混ざっている感じがある。わたし、最近どんどん自分がわかってきて、具合悪い人とか無力な人、無抵抗な人を見ると、すっごい燃えちゃうんですよ。メラメラきちゃう。友達が二日酔いでゲロ吐いたりしてるのを見るとスイッチが入って、「ああ、最高」って後ろに回って写メ撮ったり。旅行先で夫が日射病ですごい具合悪そうになってると、ワクワクしてきちゃったり。翻弄されて、無抵抗な状態の人を見るのがすごい好きで。自分が何かをやりきったときも、ある意味、つらいのを乗り越えて無抵抗になった状態にある。最近って、みんなコントロールがうますぎて、頭がいい人は特に自意識が強い分だけそれが足かせになって、何もできていない気がするんですよ。

浦沢 僕はもう完全に、自分の中にもう一人の自分がいて、そいつが「描け」って命令するからやってる。マンガ家である自分とは別に、プロデューサーである自分がいて、そいつが浦沢というマンガ家を使って何ができるのか勝手に企画を立てて「これをやるべきだ、やれ」って言うんだけど、マンガを描いてる浦沢は「無理です」って。その繰り返し。

宇多田 わかるー(笑)。わたしも最初曲を作る時に、歌詞のことをまるで考えてないんですよ。それでスタジオ入って、よし歌入れをしようってときに、自分で作ったのに難しすぎて歌えなかったりするの。それでもこのメロディが好きだから絶対歌えるようになりたいって、汗ダラダラになって必死こいてやってると、そのうちできるようになる。

浦沢 それはネーム作りと絵描きの関係に似てるよね。ネームの段階では、まだそこに絵描きの浦沢はいない。さあ、絵を描くぞってモードを切り替えたときに、これ俺が描くのかよ?って青ざめる。打ち合わせの席では、「ここは大群衆で、すごいデモ隊が一面に」とか自分で平気で言うんだよね。

宇多田 (笑)でもそれって、自分の中にいろんな人格がいるからこそ、普通以上のことができるんですよね。わたし、みんなが感動するものって”犠牲”がキーポイントなんじゃないかって最近思っていて。なんでオリンピックを見て誰もが感動するのかっていうと、やっぱり選手が私生活の中でどれだけ当たり前のことを犠牲にしてああいう肉体を作り上げているのかがわかるから、グッとくるんだと思う。わたしにしても、普段はいつも明るく元気なキャラで通ってるけど、作品にはわたしが犠牲にしているものが滲み出てる。自分で自分を犠牲にするなんて、自分の中に一人しかキャラがいなかったらそうそうできるわけがない。ただ、作曲する自分と、歌を作る自分と、アレンジをしてる自分と、トータルで考える自分と、それを歌ってる自分が全部、別々の人格でバラバラで、なんで自分んなのにこんなにコントロールできないんだろうって。浦沢さんはどれくらいコントロールできます?

浦沢 うーん、さすがにこれだけ仕事を続けてると、最近はある程度はコントロールできるようになったけどね。宇多田さんは?

宇多田 デビューしたての一時期、コントロールできなくてクラッシュしたことがありましたよ。最近は自分とのつき合い方がわかってきてるけど。

浦沢 デビューといえば、宇多田さんのプロフィールを見てびくりしたんだけど、宇多田さんが生まれたのって僕がデビューした年なんだね。

宇多田 ひぇえー、なんかすごい。

浦沢 普通はひとつ連載が終われば休むんだけど、僕の場合はいつも2本以上同時に描いてるから、これまで一回も完全なオフってなかった。少し前まで月に6本締め切りがあって、週間と隔週を交互に仕上げていく。そんなペースを23年やってきた。自分でもちょっとおかしいと思うね。

宇多田 こういう仕事だと、オフっていってもないようなものじゃないですか。時間があるってことは何か作れるってことで、今することがないなんて本当はありえない。オフのときでも曲のアイディアが浮かんだら結局作っちゃうと思うし、音楽のことなんて関係なく休むぞって決めても、じゃあどうするのかっていうと困っちゃう。

浦沢 実は『20世紀少年』ってマンガは、その前の『Happy!』の連載の最終回が書き終わった日に、「やったー、終わったー、カンパーイ!」っ(*コピーの不具合のため抜けてます!ゴメンナサイ)当分ねぇわ」って風呂入ってたら、いきなりアイディアが浮かんだんだよね。浮かんじゃったよ、まじぃって(笑)。

宇多田 すごいわかる(笑)。やっぱり、人のせいにできない仕事をやっていきたいんですよ。忙しいのはどうしてだ?辛いのはどうしてだ?全部自分のせいだ、っていうのがいい。

 

②へ続く!

 

奇跡の対談をもう一度!浦沢直樹 × 宇多田ヒカル ②
奇跡の対談をもう一度!浦沢直樹 × 宇多田ヒカル ②
ミュージシャンは嫌だった / マンガ家にはなりたくなかった 宇多田 わたし、デビューしてから最初の2年間くらいは本当に後悔していて、音楽で食べていく気なんてまるでなかったんですよ。むしろ、親が音楽のためには何でも犠牲にするみたいなボヘミアンな生活をしていたから、ミュージシャンなんて絶対嫌だなって。ある日、車がないと思ったら「スタジオ代のために売っちゃった」とか言われて、馬鹿じゃないの、わたしは絶対安定した仕事をしてやるって思ったのに、気がついたら自分もやってた。 浦沢 実は僕も全然、マンガ家になりたくはなかったんですよ。編集者になるつもりで小学館に面接を受けに行ったら、たまたまなっちゃった。でも、そこでプロデューサー的な自分が生まれてくるのかもしれない。やりたくない自分が基本にいるから、やらせるための人格を作らなきゃいけなくなる。 宇多田 そういう自分ってめちゃくちゃまともって思うことはないですか? 浦沢 僕に関して言えば、僕はいたってもともな人間ですよ(笑)。 宇多田 わたしは親と比較しちゃってるのかもしれないけど、自分はすごくまともだって思うんです。その一方で、仕事に救われてる部分もある。 浦沢(*コピーの不具合のため抜けてます!ゴメンナサイ) 宇多田 そうそうそうそう!それがわかるから、仕事してないとヤバイぞって。 浦沢 つまり、そういう自分が自分の中にいることを自覚してる部分が、普通の人よりまともってことじゃない? 宇多田 あ、そうかも。浦沢さんは、そういう自覚は昔からありました? 浦沢 僕の場合はこどもの頃に、周りがわぁっと加熱したとき、なぜだかそこから外れちゃう自分がいたんですよ。 宇多田 おおお、どうしよう、同じだ。 浦沢 その輪の中というか世界に入れないんですよ。入らないというより、自然に抜けちゃう。能動的に。そういうふうに世界を静観している感じが、大人になってからもずっとある。 宇多田 わたしも脳の回路がどこか狂ってるんじゃないかって思うときが子どもの頃からあって、嬉しい場面なのに哀しくなって塞ぎ込んじゃったり。誕生パーティを開いてもらったのに、どんどん淋しくなって、主役のわたしが部屋の隅っこにいて‥‥。 浦沢 僕なんか未だにそうだもの。未だにそういうのが抜けない。 宇多田 結局、一人でやる内向的な作業が一番心地がいいんですよね。そういうときようやく、家に帰ってきたなって思える。一人の世界で作り上げた作品って違うじゃないですか。他の誰も入れない世界。水を足してない、原液のような世界がありありとわかる作品が好きで。正直、それを手放さなきゃならないのが一番嫌だった。最近は手放す楽しさも分かってきたけど。 浦沢 それはマンガ家がアシスタントを使うのと同じだね。マンガは量産しなければチャートレースに参戦できない(*コピーの不具合のため途中抜けてます!ゴメンナサイ)りなければならないんですよ。僕もそれが最初は耐えられなかった。でも今のマンガの世界で本当の売れっ子さんになるには、他人が自分の原稿を触っても平気な人になるしかない。良質なものが描けても、量が描けなければ、ポップな層には届かないからね。

 

Invitation (インビテーション) 2006年 05月号 [雑誌]
▶ お二人の貴重なインタビュー集です★

 

点―ten―
▶ 若かりしヒッキーの才能溢れる内容は今読んでもハっとさせられます!

 

線―sen―
▶ 「点」と「線」合わせて読むのがオススメです♪